Message from heaven...?
『Start Line』

「いつも大変だよ。夜遅くまで起きて勉強するのは……
少しは大学生みたいにゆっくりしたいわー」
 亜矢は、能天気に言ってみた。
 だが、カウンターの向こうにいる成年は溜め息を付く。
「あのな、亜矢ちゃん。大学生の方が大変だぞ。難しい事ばっかりやってるし」
 それを聞いて亜矢は少し退いた。
 それから身を乗り出した。
「でもね、少なくても中学は早く終わりたいのよ」
 すると、横から抑える少女がいた。
「亜矢ちゃん。今の時期って、私達、一回しかないんだよ?
十三歳の私達は、来年にはもう味わえないんだよ?」
「も〜〜〜〜〜、美由って何で大人になりたくないような事を言っちゃって」
「そうじゃないって。亜矢ちゃんの方が少年時代っていうのを捨てているとしか思えないよ?」
 それを言われて完全に言い返せなくなる亜矢。
 成年は笑いながら紅茶を出した。
「今は時間が長く感じる時期だ。今のウチに多くの事を学ぶといい。
俺より長生きするんだろ?それなら、俺より長く楽しい事を感じ取れよ」
 そう言うと、二人は目を輝かせた。
「有難うね!勇樹さん!これで元気になったよ!」
「私も勉強になりました!」
 美由と亜矢は勇樹に感謝すると、紅茶を飲んで仲良く家路に着いた。
 だが、この時は、まだ勇樹は何も知らなかった。
 二年後のあの日に事故で亜矢が帰らぬ人になってしまった事。
 そして、美由は心を閉ざしてしまった事に。


「俺は預言者でもなければ霊媒師でもないから、
その事件に付いてハッタリをかますつもりもないし、詳しい事も言えない」
 それを聞いて、美由は沈んだ顔になった。
 いくら超能力者とは言え、何も出来ない自分を悔やんだ。
(俺も世界を超える能力が戻っていたら少しは力になれるんだけど)
 勇樹は頭を掻いた。
 美由は、紅茶を飲んで涙を止めようとしている。
 それを見た勇樹は、美由の頬をつねって横に広げた。
「おい、そんなに沈んでる顔してるくらいなら、ちったぁ亜矢の分まで人生楽しめ」
「ふぁ、ふぁい」
 指を離す。
 それから、流した涙を拭く。
「涙を流されると、俺がムカつく。女は泣いているより笑った方がいい顔をするからな」
 そう言うと、彼女はようやく笑った。
「なんか、新手のナンパみたいですね」
 冗談交じりにそう言ったのを聞いて、俺も笑った。
 それにつられて美由も笑った。
 久しぶりに笑ったような気がする。
(二年ぶりかな、笑ったの)
 勇樹は、そう思いながら冷めかけたの紅茶を飲み干した。
 笑いつかれた美由は、真面目な顔になって勇樹を見た。
「あの、勇樹さん。頼みたい事があってこの店に来たんです」
「ん?何だ?」
「実は、亜矢ちゃんが本当に幽霊として私にメールを打って来ているのか、
それとも誰かが私の為に亜矢ちゃんのアドレスで送ってきているのか調査して欲しいんです」
 それを聞いて、勇樹は驚いた。
 それは、今の彼女からは全く想像も出来ない言動だった。
「結果が出ても、言わないかもしれないぞ」
「えぇ、構いません」
 そう言ったのを聞いて、勇樹の心は決まった。
「分かった」
 そう言って、彼は立ち上がった。
 それに習って美由も立ち上がる。
「君の依頼を、責任を持って調査いたします」
「有難うございます」
 改まって言う事で、二人は忘れずにいる事になった。
 例え、結果が最悪なものであれ、出さざるを得なかった。


 その三日後、勇樹は高校の階段を駆け上がっていた。
 彼の手の中には、青く光り続けるリングがあった。
 透明なガラスのようなもので出来たそのリングは、何かに共鳴し続ける。
「美由!早まるんじゃないぞ!」
 勇樹は、階段を上りながら叫んだ。
 屋上に出た彼は、彼女と対面した。
「美由!」
 すると、彼女は振り返った。
 彼は、彼女と向き合う形で間合いを計った。
(ダメだ、説得しない限り死ぬ)
 二十数年生きた中で、一番の選択肢が出てきた。
 ふと、彼女の手に目が行くと、その手の中には、赤く光り続けるリングを見つけた。
 恐らく、彼の持っていたチョーカーは、美由の持っていたチョーカーと共鳴していたに違いない。
(何か関係があるのか?)
 そう思いながら勇樹は美由を睨みつけるように対峙した……

 

モドル