Message from heaven...?
『夢・・・』

暗がりの夕日のなか、修一は部屋の電気も付けずにこもっていた
「……」
ベットに寝転びながら
ただ、手のひらの中にうつる、何かを黙って見つめる。
その先には…
亜矢がいなくなった日に買った、3人おそろいのチョーカ…いや、
正確に3人おそろいだと知っているのは2人だけだ。

亜矢と修一の2人だけ……なのだろう。

そう…
あの日の2人…だけ

 

夕方になってもう暗くなりかけた頃。そろそろ解散することになった。
「じゃあ、私もう帰るね。」
亜矢が言い出した。
そしてみんなそれぞれ家へ帰ることにした。
「バイバイ。亜矢、修一」
「あぁ、またな〜。亜矢、美由」
「バイバイ・・・修・・・美由♪」


「はー…」
修一は、帰り道の途中で立ち止まっていた。
信号待ちだ。
空を見上げる…
その、空を眺めながら修一は今日のことを思い出していた。
そして―

「…付き合ってる、か…」

と、修一はぼやいた
(2人で出かけたこともないのに付き合ってる、ね…
亜矢と一緒に出かける場合は、常に美由も含め3人同じに行動していた。
それが、気に食わなかった…といった訳でもないが
修一の『彼氏彼女』的な考えとかみ合っていなかったので
どこか、納得できないとこがあった。
(やっぱ、女同士のほうが楽しいのかもな…
特に今日の出来事でひっかかってるところだった。

―チョーカの件。
なんだか、自分だけのけ者にされた様で、嫌だったのだろう。
亜矢と美由…2人楽しくしてたから……
(ねだられて金払っただけだしな〜…おれ
(って…
(なんかガキみたいだな…今の考え…
自分の考えていた事が恥かしく思えてきた。
(おれは、同性で亜矢の友人相手に嫉妬してんのかー?

信号が青に変わる

―付き合った最初の頃はそんなこと考えてもみなかった…―
「(おれも、まだまだ…だな)」
―気にもしなかった…でも今は―
―きっと、亜矢の事が―


「はぁ……」
どうしようもないため息が出た。
(…くだらない。どうせ中途半端な腐れ縁ってやつだろーに…
(深く考えても仕方ない……やめやめ
信号が変わっている事に気づき、渡ろうと歩き出したとき

「なぁ〜に、ため息ついてんのっ」

ふと、声をかけられる。
(おれに、話しかけているのだろうか…
「はい…?」
振り向くその先…
そこには、もうすでに帰ったはずの亜矢が立っていた

―何してんだ?―
まず最初にそう思った。
何故か…亜矢は汗をかき、息を切らせていたからだ。
理由として考えられること
汗っかきって訳でもないこいつが汗かくなんて運動以外には考えられない
…ようするに、走ったのだろう。
まして、そうとう急ぎでもしない限り今日の気温で汗なんてかかないはずだ
(問題は、帰り道も違う方向なのに何故、そんな走ってまでおれのところに来たのか…だ。

何か大事な用でもあるのだろうか…おれは亜矢に直接聞くことにした。

「…どうした?」
修一は歩く足を止め、亜矢と完全に向き合うかたちをとる。
「うん?はぁはぁ…いや、ちょっとね……ふぅ〜…とりあえず、信号信号」
そう言い亜矢がおれの後ろを指した。
確かに、信号が青から赤へと変わりそうだった。
「あ、ああ…そうだな」
ふに落ちない…どこか、誤魔化された気がした。

いや、気がした…なんかじゃなくて、誤魔化されていた…

信号を渡り終えたときから…
ふたり無言で歩いたことが、それを証明しているから

大概なら亜矢から話しを戻してくる、おれが嫌だと思うくらい
話しかけてくる。

今日はそれがない…


しばしの、無言が続いた。


「…」
「……」
ふたり、どこへ行くわけでもなく歩いていた。
どちらかの家に帰るわけでもなく、とくべつ目的の場所もなく……

やはり、ふたりとも無言だった…


その間、おれは考えていた。

考えてた事…それは

―信号待ちの時に考えた事―

―亜矢から好きと言われた時の事―

―おれが亜矢と付き合った理由って、ホントにただの腐れ縁だからなのか?―

とにかく、いろいろだった…気がする

「ねえー…修…」
ふと、考えを止められる
「…なんだよ…」
あまりに、無言でいた時が長かったためか…
考え事に集中してたせいか…不機嫌そうにとられたかもしれない…
おれがそんな事を気にしているとも知らず亜矢がおれの一歩前へ出る
歩みを止め…空を見上げる…
つられておれも、その場に立ち止まり空を見上げた…

何かあるのだろうか

いや、何も無い
夕日も沈み…暗い空があるだけ……だった覚えがある

視線を下に戻すと亜矢がおれを見ていた…
そして

「すぅー…私は、修が好きなーのだ」

と言い出した。
おれは、亜矢がバカを言い出したのかと思い、顔をしかめる
「…氏んでくれ」
おれの
どこか、2ちゃんチックなコメント…の後
「いやいや…あのね」
と、亜矢が違う違うと言わんばかりに手を振りながら言う。

「ココ、私が修に告白なんてものをした場所だから…ね」
その、言葉で気がついた
(そういえば…ここって…
おれは辺りを見まわしながら思い出す。
―確かに、ここは亜矢がおれに告白した場所だった―
亜矢はあたまをかきながら、付け加える。
「再現してみました〜」

(再現ね……
それは、どうでもいいとして…

(もう、こんな場所まで来てたのか……?
無言で行くあてもなく歩いていたら
亜矢からの告白を受けたりしたこの場所に来てしまっていた…
街から遠くて、
とても静かで、
とても小さな公園…そこに来ていた。

「…あの時は…さあ」
亜矢が再び歩き出す、そして話し出した
「…私からの一方的なアレだったよね?」
アレとは告白のことだろう
「やっぱ、私かなり恥かしーこといったよね…たぶん」
無言でおれはうなずいた。
亜矢はそれを確認し、顔を下に向け話しを続けた
「もしかしてさ…イヤだったーとか?」
「…なにがだよ」
それ、主語とか色々抜けてるぞと注意したかった。

下を向いていた亜矢が急におれと目を合わせて問いた。

――その時の目が

「……もし」
(…もし?
おれは心の中で聞き返す…

―――その時の言葉が

「あの時、告白したのが美由だったら……」
「はあ…?」

――――今でもわからない

(美由だったら…?

「…」
「…」
小さな公園を包む…静けさ
ほんの数分…数秒だったのかもしれないが、何故だろうか…凄く重苦しかった気がする…

亜矢が目をそらして
「…ごめん、変な質問した…よね」
と一言
それが言い終わるか、否か。亜矢が走り出した。
「な…」
急な話し…急な出来事でおれは、情況が全くつかめなかった
「…ちょ、おい!亜矢!!」
とりあえず亜矢を追おうとおれも走りだした、その時

――――ぽとっ――――

亜矢のポケットから何かが落ちるのが見えた
「え…?」
つい、おれは亜矢が落としたものを拾う。
キレイに包装された物…どこかで見たことのあるこのカタチ
「この包装……あの店のチョーカー、か…?」
今日、亜矢と美由に買ってやったチョーカーだった。
キレイに包装されて中身の確認はとれないが、ついさっき亜矢たちが買ったものと
全く同じ絵柄、同じ大きさなので間違いは無い。
おれは、亜矢を確認しようと前を向く…
が…
すでに辺りには誰もいなく、おれ1人取り残されていた。

(このチョーカーって…おれが亜矢と美由に買ったやつじゃ…
亜矢か美由どちらかの忘れ物…なのか
そう、最初は思っていた。

しかし…そうでは…なかった。

(ん、なんだ…何か書いてある……
このとき、時間で言うならばすでに夜の8時をとうに回っていた。
(亜矢と美由のやつにはこんな文字入れてなかったよな…?
なので、辺りは暗く字も見にくかったためその文字は読みにくかった。
それでも、おれは目を細めたりしてなんとか書かれている文字を読もうとした。
(え〜と…なんだって…
「しゅ〜…うへ、い……きょ、のお…れい…だよ?」

(−修へ…今日のお礼だよ♪−

包装の上からそう書かれていた。

(…今更、お礼って…なんだってんだよ…コレは
そう、愚痴にながらも
さらに包装した紙を調べて行くと、また別の言葉が書かれているのを発見する
(ん…続きがある…のか…
さっきの文字よりも小さくて
どこか弱々しく書かれていた…その文字を…
…今更だけど
…そんな文字、読まなければよかったのに…って思う

「…はっあ!?」
一瞬、自分の目を疑った…
(…んだよ…それ
何度も見なおした。
月明かりしかない、暗さのせいなのだろう…
と思い…何度も何度も確認する。
向きを変えたり、下から覗き込んだり、蛍光燈の下に行って確認したり…
しかし……
何度見ても、書いてあることは変わらなかった。

それでも、信じらなかった。
(……亜矢と、亜矢と会ってから…そしてから話しを聞けば……いいか
おれはチョーカーを強く握る。

明日がある。

そんな思いを…
それを今、後悔している。

その日に会いに行けばよかったのかもしれない。
そしたら、何か変わったのかもしれないのに
亜矢が、今も存在してたのかもしれないのに
でも、
結果は…これが結果なんだ

次の日の亜矢の死…それが何もしなかった、
彼女の想いなんか考えた事の無い、
自分への…………

 

「っ!!!」
―――がばっ!!
布団が蹴飛ばされた。
「…」
「……」
――――――――ちゅん、ちゅんちゅん
日の光のせいだろうか…目が…まぶしかった…
鳥の声だろうか…なにか、うるさい気がする…
(ん…朝か…?
…朝…
…確かに朝だった。
すがすがしくない…でも、コレは朝だった。
(また、あの夢だったのか…?
胸の辺りがじっとりと濡れている…
見れば、寝汗でぐっしょりとしていた。

(これが、現実…か、
その夢の後
…亜矢に会える事は二度と無くなった…
話す事が出来なかった…
あの言った事の理由もわからない
ただ、残ったのはこの手に握られたチョーカーだけ…

それが現実だ

…いまだに、包装されたままの亜矢からのお礼のチョーカー…だけなんだ
(どうでもいいが…おれ…また、チョーカー握ってる…
きっと
心のどこかで
…このチョーカーだけが、亜矢が現実にいた事を思い出させてくれるんだ…
って言っている。

―――ピピピ、ピピピ、ピピピ

今度はなんだ…と
目を音のしたほうにやる。
(時計…
そこにある、時計の針が、修一を学校へと行かなければならない時間を示していた
「…」
(……学校へ行く時間か…

―やりきれない気持ち―

(なに、いつものことじゃないか…
亜矢が死んでからは、いつものこと。
と―自分に言い聞かす

――アノ日の夢――

―――イヤになる現実―――

――――ココに残ったチョーカー――――

(いつものこと…
修一は気力も無く学校へと向かう…。
亜矢からの別れの贈り物をズボンに持って、何をするわけでもない学校へと向かうのだ。

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キーンコーン、カーンコーン…キーンコーンカー…キーンコー…

――午後は席替え…らしかった
(…席替え、か…
まわりの人たちが嬉しそうな反応をしているような…
しかし、おれは何を反応することなく、ただぽけーとしていた
「…」
「……」
「………」
「……ん…?」
ふ、と
美由と目が合う…

最近はとくにと言うほど美由と目が合う…
すぐ、そらされてしまうのだが…
―ばっ
「……」
やはり、すぐにそらされたか…

(美由…
美由を見るたび思う…アノ日の亜矢の言葉

―もし、美由だったら?―

もし?美由だったら?

(どうして…聞くんだよ…
そして、見るたび繰り返すおもい
(どうしてそんな事、おれに聞くんだよ…

言葉の真相がわからない…それが何だか悔しくて…
また、おれはこのチョーカーを握る。

あの日、亜矢が修一に問いたこと
…チョーカーの包装の上から書かれた文字のこと…

(亜矢は…何を言いたかったんだよ…何を思ってたんだよ…

そして

(亜矢…おまえは何を、望んでいたんだ――?

再びおれは…あの文字
包装の上から書かれたあの文字を読みなおしてみる。

何度も読みなおしたし
今はあの日と違い、明るい…昼間だから、文字がよく見える。
そう、月明かりの下とは違いハッキリと…見える。

 ――これ、最後の思い出にする…だから、
                 
              別れようか……
                     
                ごめん、なさい…だね……ごめん――

(別れよう…か…

気がつけば…おれが席替えのクジを引く番だった…

美由はすでにクジを引き終わったのだろうか…
「…」
「……」
「………」
どうもさっきから、美由のおれへの視線が気になる
「…ぁ」
―ばっ
やはり、そらされる…
(何してんだかなー…あいつは…


―もし―

―もし、あの時…美由だったら?―


おれは、クジを引いた。

モドル