「え・・・ど・・・どう言う事?」
いきなりの質問に、美由はとまどった。
「いや・・・その・・・どう思ってたのかなって・・・」
修一はうつむきながら、同じ質問を繰り返す・・・
「どっ・・・どうって言われても・・・」
美由は答える事が出来なかった。
「そ・・・そうだよな・・・ごめん・・・いきなり変な事言って・・・」
修一は顔をあげて美由を見る。
美由は修一の視線を感じていたが、修一を見る事が出来ない。
沈黙が二人の会話をのみこむ・・・
夕日があたりを照らし、永遠とも思える時間が二人を包み込んだ。
沈黙を破ったのは修一だった。
「ごめんな、変な事言ってさ・・・今の・・・忘れてくれ。」
そう言って修一は立ち上がり、すべり台の方へ歩き出した。
美由も立ち上がり、修一の後へと歩き出す。
夕日を背中にして、修一はつぶやいた。
「俺、最近・・・変な夢を見るんだ・・・」
「変な夢?」
「うん・・・亜矢のやつが出てきて、変なことを言うんだ・・・」
「変なこと・・・って・・・」
「修一はしばらく考え込んで、首を振りながらこう言った。
「いや・・・なんでもない。」
ズボンのポケットに手を入れて、そこにあるチョーカーを握り締める。
修一は思った。
(こんな事美由に話しても、嫌な思いさせるだけだな・・・)
夕日がやけに眩しくて、修一の顔が見えなかった。
「どうしたの?修一なんか変だよ?」
「いや・・・なんでもない。もう、こんな時間か・・・家まで送るよ。」
時計と美由の顔を交互に見ながら、そう言った。
「・・・うん・・・」
修一が歩き出す。少し遅れて美由も歩き出した。
あたりはいつのまにか薄暗く、二人の影をかき消していった。
帰り道、美由は、修一の背中を見ながら考えていた。
(修一が言った言葉・・・「俺が亜矢と付き合ってたの見て、どう思ってた?」
何でそんな事言うのかな?もしかして・・・私の気持ちに気ずいたのかな?どうした
らいいんだろう・・・)
そんな事を考えているうちに、修一が止まるのに気がついた。
修一は振り返らずに、つぶやくようにこう言った。
「また明日・・・学校でな・・・」
「うん・・・また明日・・・」
修一は足早に去っていく。
美由はなぜか、修一の顔を見なくてホッとしている自分に気が付いた。
(明日、どんな顔して会えばいいのかな?わかんないや・・・)
美由は、助けを求めるかのように玄関のドアを開けた・・・
部屋に着くなりパソコンの電源を入れて、メールをチェックする。
着替えながら、メールが来るのを待っている・・・
――――新着メールなし――――
「あれ?亜矢からメールが来てない・・・どうしたんだろう?」
心なしか不安がよぎる。
チョーカーを手にとって見ても、光ってはいない・・・
「亜矢・・・」
美由は小さくつぶやいていた・・・
「美由、萌ちゃんから電話よ〜」
母親の声に我に帰る。
「は〜い・・・今行く〜」
部屋から出る時、ふと、後ろを振り返り、パソコンに目を移した。
いつもと変わらない画面がそこにあるだけだった。
階段を下りて、母親から受話器を受け取る。
「もしもし、萌?」
「もしもしぃ〜、美由?、さっきさぁ〜外で永岡見かけたんだけどぉ〜、
なんか思いつめたような顔して歩いてたよぉ〜、何かあったのぉ〜?」
永岡って言葉を聞くと「ドキッ」っとする。
「え・・・何かって?」
「だってぇ〜美由の家の方から来たって事はぁ〜、送ってもらったんでしょぉ〜。」
「う・・うん・・・」
「やっぱりねぇ〜。そうだと思ったんだぁ〜。
それでねぇ〜、声かけたんだけどぉ〜、なんか考え事してたみたいでぇ〜
私に気が付かなかったみたいでさぁ〜」
「そ・・・そうなんだ・・・」
「そうなんだって・・・美由ならぁ〜何かぁ〜知ってると思ったんだけどぉ〜。」
美由は、公園の事を思い出た。
「さ・・・さあ・・・。」
「そっかぁ〜・・・ならいいやぁ〜。用事はそんだけぇ〜。何か気になったからさぁ
じゃあ〜、明日、学校でねぇ〜。おやすみぃ〜」
「うん・・・学校で・・・おやすみ・・・」
ツッー−−ツッー――ツッー――ガッチャン!!
受話器を置く。
(修一・・・何を考えてるのかな?)
足早に階段を上り、自分の部屋へと戻る・・・
相変わらず、光っているだけの画面を見る美由。
マウスを手に取り、送受信ボタンをクリックしてみる・・・
−−−−新着メールなし−−−−
しかし、メールは来てはいなかった・・・
萌は塾の帰り道、いつもと違う道を歩いていた。
今日発売の雑誌を買うために、美由の家の近くのコンビニに寄った。
「確かぁ〜この辺にあるはずなんだけどぉ〜」
立ち読みしながら何気なく外を見ると、修一が歩いていた。
「あぁ・・・永岡だぁ〜!!」
お気に入りの雑誌をレジまで持っていき、お金を払って外へ出る。
「おぉ〜〜い・・・永岡ぁ〜〜」
ちょっとハスキーともいえる萌の声は、修一には届かなかった。
わりと人通りの多いい道路は、萌の声をかき消した。
「あれぇ〜・・・聞こえなかったかぁ〜・・・まあ、いいや・・・
でもぉ〜・・・様子が変だったようなぁ〜・・・あんな事があったばかりだか
らぁ〜、しょうがないかぁ〜・・・。
美由の家の方から来たと言う事はぁ〜・・・後で美由に電話してみよ〜っと。」
修一は美由を送った帰り、考え事をしながら歩いていた。
「亜矢の奴・・・何であんな事言ったんだ・・・?」
ポツリとつぶやいた声も、人の波にかき消されていた・・・
その夜、美由はなかなか寝付けなかった。
少し肌寒い夜は、美由にとって不安を与えていた。
(メールが来ないなんて・・・どうしたんだろう・・・ほんとに・・・
もう、成仏しちゃったのかな?・・・でも・・・
でも、パラディンさんは、亜矢はこの世に未練があるって言ってたし・・・
・・・あれから連絡来ないけど・・・まだ「シルバー」にいるのかな・・・?)
いつもと変わらない夜は、美由を夢の世界へと導き始めた・・・
美由はいつの間にか、寝息をたてていた・・
−−次の日−−
ピピピピ・・ピ・・・ピ・・・・
いつもと変わらない朝、いつもと変わらない目覚ましの音。
時計は、6:30AMを告げている。何事も無かったように、いつもの朝が始まる。
美由は、気だるさをおぼえながら、いつもの朝を迎え入れる。
「もう朝か・・・」
美由の脳裏に昨日の出来事が思い出される。
「どんな顔して修一に会えばいいのか・・・わからない・・・」
(私は修一が好き・・・でも・・・)
美由は頭が痛いと母親に言って、今日は学校を休む事にした。
生まれて初めてのずる休みである。
「おはよぉ〜・・・間に合ったぁ〜」
萌は、遅刻ギリギリの時間に教室に入る。
「セーフ!!」
と、友達の明るい声。
教室を見渡すと、修一が目に入る。そして美由の姿が無い事に気ずく。
「あれぇ〜?美由はぁ〜?」
「今日は休みみたいだよ?」
「ふ〜〜ん・・・そうなんだぁ〜・・・永岡ぁ〜何か聞いてないぃ〜?」
萌は、昨日の事を思い出し、修一にふってみる・・・
「いや・・・別に・・・何も・・・」
うつむきながら、修一も昨日の事を思い出していた。
「そっかぁ〜・・・風邪かなぁ〜?」
その時、授業開始のチャイムが鳴り響いた・・・
修一は何も手につかなかった・・・
−放課後−・・・
修一は帰り支度をして、教室を後にした。
校門を出ると、一人の男が近ずいてくるのが分かった。
「君・・・1年の長瀬美由ってしってるか?」
「え・・・えぇ・・・知ってるけど・・・あなたは・・・?」
「俺か?俺は勇樹ってんだ。見てのとうり喫茶店で働く超能力者だ!!」
一瞬間をおいて・・・
「・・・・・・・・・は・・・?」」
修一は思った・・・
(なんだ?こいつ?)
「まあ、そんな事はどうでもいい。美由はまだ、教室にいるのか?」
「美由と、どういう関係なんですか?」
「お・・・警戒してるな。まあ、いわゆる・・・依頼者だ。」
「依頼って・・・いったい何を・・・」
「それは教えられない・・・企業秘密だからな」
「美由は今日、学校を休んだけど・・・」
「・・・そっか・・・風邪か何かか?」
「先生はそう言ってたけど・・・」
修一は「勇樹」を不信に思いつつも、素直に答えていた。
勇樹は、修一を人目見た時から、亜矢の彼だと見抜いていたようだ。
「君にも関係ある事なんだが・・・」
「どう言う事ですか?話が良く解りませんが・・・あなたはいったい、何を調べてる
んですか?」
「美由に話があるんだ・・・もちろん・・・君にもな。」
「話・・ですか・・・どんな・・・」
「それは、美由と君と、亜矢の事でな・・・」
「亜矢の事・・・」
修一の鼓動は、ドキドキ波打っている・・・今にも張り裂けそうなほどに・・・
そんな修一の変化に気ずいたのか、勇樹はこう言った。
「明日の5時、木下通りの「シルバー」で待ってる。美由もつれてきて欲しい。今日
は話さない方がよさそうだからな・・・」
「・・・解りました・・・明日・・・シルバーですね?」
「そうだ、待ってるよ・・・・」
勇樹は去ろうとして、思い出したかのように振り返りこう言った。
「っと、そうそう、シルバーに変な奴がいるが、まあ、気にしないように・・・」
「変な奴って・・・いったい・・・」
「じゃあな!!」
そう言って勇樹は通りの向こうに去っていった・・・
修一には「謎の男の言葉」だけが残った。
修一は歩き出した・・・
夕日が修一の後を包み込むように、鮮やかなオレンジ色に変わっていった・・・
次の日の教室での出来事・・・
修一は、昨日の出来事を、美由に話した。
「昨日、こんな事があったんだ・・・」
修一は手短に、かつ、解りやすいように美由に話した。
「そう・・・勇樹さんが・・・」
「勇樹って、どんな奴だい?」
「喫茶店で働いてる・・・気のいいお兄さんって感じかな?」
「そっか・・・信用できる奴なんだな?・・・」
「うん。」
「そっか・・・わかった。これから木下通りのシルバーへ行ってみよう。」
そう言って二人は、学校を後にした・・・