上から下まで黒の皮製の服で決めたヘビメタ風の男がまわりから少なからずも注目を浴びていた。
男は愛車であるハーレーに腰掛け時折サングラスをずらし時間を気にしていた。
「約束の時間は過ぎているし、いったい何の用があるっていうんだ」
(逃げて・・・早くそこから離れて・・・)
「なんだ!今の声は」
突如頭の中に響いた声に辺りを見渡す男パラディン、その目に明らかに制限時速を越えているだろうと思われるトレーナーが飛び込んできた。
ドカッ、ガシャーーンと鈍い衝撃音とガラスが飛び散る音の後、凄まじい爆音が響き渡り辺り一面を火の海へと変えた。
突如起こった大惨事に混乱する中、悠然とハーレーに跨りその場を離れるパラディン。
「おかげで助かったよ」
心地よいエンジン音が聞こえる中、パラディンは誰ともなく話かけている。
「あなたにはそんな必要はなかったかもしれなかったけどね」
走行中のバイクのハンドルに亜矢が座っていた。
その姿は半透明のようで普通の者なら姿を見るか不自然にバイクのハンドルに座っている様子をみて驚くだろうがパラディンは平然としていた。
「いや、君の声がなければ愛車を失っていたところだ・・・感謝してるよ」
「パラディン、あなたの力を貸してほしいの」
木下通りの喫茶店「シルバー」
ここは低額でインターネット&ドリンク飲み放題ということで学生がこの夕時になると多く集まってくる。
現在の時間は5時30分。
美由と修一は勇樹の言った通り5時にシルバーを訪れていた。
そして勇樹から亜矢の正体を明かすと聞かされ店の一角に三人で座りその時を待っていたのだ。
5時40分
刻々と進む時間に美由と修一は、亜矢の正体と聞かされ緊張した様子で待っていた。
だが勇樹は内心焦りと苛立ちを覚えていた。
(まったく何をしているんだ!時間は守れとあれほど念を押したのに)
「勇樹さん、これから何が起こるんですか?」
さすがに時間が経ち過ぎ美由が耐え切れなくなり勇気に尋ねた。
(ちっ、仕方がない、亜矢と偽ってメールを送っていた人物が現れてきてから始めようと思ったが)
勇樹の計画はこうだった。
勇樹の雇った者にシルバーに来させ美由に直接メールを送るところを見せるのが第一の目的だったのだ。
予定を変更させて始めようと思ったその時。
「あっ、メールが着たみたい」
美由の携帯がブーンと唸りメールの到着を知らせたのだ。
「亜矢からだ!」
久々の亜矢からのメールに歓喜の声をあげる。
「そ、そんな馬鹿な!」
ガタッと音を立て席から立ち上がる勇樹。
「ど、どうしたんですか勇樹さん」
突如の勇樹の態度の豹変に驚く二人。
(馬鹿な・・・俺以外に美由にメールを送っている奴がいるなんて・・・)
自問自答を繰り返してる勇樹は美由が席を立ったのに気がつくのが少し遅れた。
「み、美由ちゃんはどこに?」
なんとか平静さを装って修一に話し掛ける。
「トイレ行くって言ってましたよ」
「あーそうか」
落ち着くためにコップを手に取り口にしようとしたがハッと気がつき中身がこぼれるほど勢いよくテーブルに叩きつけた。
「しまったー!」
美由はトイレに行くといっておきながらトイレとは反対の店の入り口へと向かって行ったのだ。
すぐさま後を追い店の外に出たが美由は誰かのバイクの後ろに乗り遠ざかっていくところだった。
「あれは、パラディン・・・昼間仕留めたと思っていたのだが生きていたのか」
去っていくバイクを見つめる勇樹の目は常人の目つきではなくなっていた。
パラディンが操るハーレーの後部座席に乗り落ちないようにとしがみ付いている由美。
「パラディンさん、これからどこに行くんですか?あのメールはパラディンさんが打ったんですか?」
「そーだな、どこに行けばいいのやら・・・」
自分を連れ出したのがパラディンだと思い込んでいる美由はその返答に混乱するばかりだった。
「河川敷公園へ行って」
「えっ?」
突然のしかも聞きなれた声に驚きの声をあげる美由。
「驚いたようね美由、詳しくは公園に着いたら話すわ」
パラディンの肩からひょいと顔を覗かせる亜矢がいた。
「亜矢ーいったいどういうことなの?説明してよ」
うっすらと見えずしかも空を漂っている亜矢に混乱し説明を求める美由。
「それにさっきの勇樹さんから逃げてってメールはどういうこと?」
「美由、最後まで落ち着いて聞いてね」
そういうと亜矢は近くの手すりに腰を降ろし話し始めた。
「美由あなたには力があるの、信じられないくらい強大な力がね。その力の存在を知った勇樹は自分のものにしようとしてきたのよ。あいつには人を操る力があって様々な男を美由に近づけてはひどい目にあわせ続けた、修一も操られた一人だったわ。そして散々弄ばれボロボロに疲れ果てた時にあいつが美由の前に現れたのよ、すべて仕組まれたこととは知らない美由はあいつを信用しすべてを捧げたのよ。」
そこまで一気に話すと亜矢は美由の隣にきて話を続けた。
「力が手に入れば、もう美由には用はなかった、まるでゴミを捨てるかのように簡単に捨てたわ。そして何もかも信じれなくなった美由は自分で自分の人生に幕を閉じたのよ。その時自分の中に残ったほんのわずかな力を私に与えてね」
「そうして8年後の未来からやってきたと」
今までじっと腕組みをしていたパラディンが口をはさんできた。
「そう気がつくと高校生に戻っていたというわけ、私は後先考えずあいつ、勇樹の元へ向かったわ!その結果がこれ」
自分が殺されてしまったというのに手をあげておどけてみせる亜矢。
「それでも美由から与えられた力で私は思念体となって存在できていると言うわけ、今こうやって由美に私の存在を確認してもらえるのはパラディンの力のおかげなんだけどね、それまではいくら話しかけても気づいてくれないんだもんなー美由ったら」
「ちょ、ちょっと待ってよ、8年後ってどういうこと?わけわかんないよ」
当然のごとく更に混乱が深まりパニックに陥る由美。
・ ・・・・・30分後
「わかったわ、つまりこういう事ね、私には力があって勇樹さんがそれを奪おうとしていると・・・それを阻止しようとして亜矢は殺されたと・・・はぁ」
あまりにも衝撃的な事実にため息をつく由美。
「よし、じゃあ美由も理解してくれたことだし」
そう言ってパラディンの方を見る亜矢。
「行くか・・・」
パラディンは重い腰をようやくあげてハーレーに跨る。
それをみてまた慌てふためいたのは由美だ。
「ちょ、ちょっと行くってどこに?」
「勇樹は自分の計画がばれたからにはなりふりかまわず来るだろう、しばらくは身を隠したほうがいい」
「そうよ、パラディンさんの仲間達がいるところでかくまってもらって対策を立てるのがベストだよ」
そう言って美由を説得する亜矢。
「でも・・・修一くんはどうなるの?大丈夫なの?」
恐る恐る聞く美由の質問に静かに首を横に振るパラディン。
「俺が考えるには俺の仲間の元へ行き力を自分の物とし、勇樹へ対抗するのが最善の策だとは思うが、修一を救う可能性は無くなると言っていいだろう、しかし今行ったところで救えるかどうか」
「美由・・・」
心配そうに美由を見つめる亜矢。
「どうするか決めるのは君の意思次第だ」
そう付け加えるパラディン。
今、修一を助けに行くべきか、逃げることを優先にするべきか選択しなければならない。
美由に運命の決断が迫られていた。