『アナフッドの過去』
「アナフッド!」
そういって駆け寄って来たのは俺の弟のフールアだった。
俺達は昔、両親の離婚で別々になった。
なんとか居場所をつきとめたらしく、フールアの方から俺に連絡をした。
実に3年ぶりの再会である。
あまりになつかしすぎる顔に涙さえ浮かべていた。
久しぶりに会った弟は生意気なことになんと恋人までつれて来た。
「兄さん、この人は僕の恋人のアイナ。かわいいだろ?」
ちょっと照れ気味に紹介すると彼女は、
「あなたがフールアのお兄さまなのね!いつも話をきいてみます。”僕の自慢の兄さん”だって。」
アイナが言うとフールアは真っ赤になって笑っていた。
「今日はピクニックだからお弁当持ってきたのよ♪」
アイナは弁当らしき包みを俺達に見せ、ニコニコしている。
まったく、フールアのやつどこでこんなかわいい彼女みつけのか・・・
ホント羨ましいぜ(涙)
俺達は船でアフアト山の麓まで行き、山を登ることにした。
ピクニックというよりは、遠足か登山ってトコだな(笑)
沢山の緑の中を歩きながら俺達3人は昔話や「向こう」にいってからどうしてたかなど
話していた。
もうすぐで山頂だという時に、アイナは綺麗な花をみつけた。
「わ〜♪キレイ、ねぇ、摘んでもいいかしら?」
俺達は笑いながら答えた。
「いいんじゃねえの?野草だし。な?フールア。」
「あぁ、そうだね。」
そしてアイナがその花に手をのばしたとき・・・・・
「!!」
一瞬何が起こったのかわからなかった。
アイナが消えてしまったのかと思った。アイナは落ちたのだ。
アイナの体はまるで人形のように空中に身を躍らせた。
「アイナ!?」
・・・・名前を呼ぶのは少し遅すぎたのかもしれない。
アイナは岩影へと消えていった。
俺達はただボーゼンと立ちすくんでいるだけだった。
ほとんど放心状態で下へおり、彼女の姿をさがした。
アイナの無惨な姿さえ想像しながら・・・・
そして俺達は岩の上に横たわるアイナをみつけた。
金色の髪は乱れ、白い肌は鮮やかな緋色で染められていた。
その姿は哀しいほどに美しかった・・・・・・・・。
「アイナ・・・・・あぁ・・・なんてことだ・・・アイナ・・・。」
いくらよんでもアイナはなにも反応しなかった。
もう、アイナには息がなかった・・・・・。
こんな簡単に人は死んでしまうのか・・・・?
人の命とはこんなにもろいのか・・・・・・・・・・?
それからだった。フールアの様子がおかしくなったのは。
恋人を失い、フールアは心まで失ってしまったのだ。
フールアは荒れ果てた。いくつもの罪を犯し、そして今この世の全てを、
消してしまおうとしていた。
つづく・・・・・・。
第10話へ